良質な小説
圧巻だった。
壮大な映画を観終わったあとのように余韻がいつまでも残った。何とも言えない感覚に包まれた。
久しぶりに良質の小説に出会った。やっぱり、 宮尾登美子という作家は、凄い。
"松風の家" 上下巻
千利休を祖とする名家一族の明治、大正期における栄枯盛衰を、日常生活を通して描いたものである。その文章の美しさと流れるような文体にどんどん小説の中に引き込まれていった。
登場人物の誰もが己の立場を心得ており、謙虚であった。そういう時代を描いている事が物語を一層、美しいものにしているのかもしれない。
何度も涙がこぼれた。
あの時代の人々は、自分の思いをどれだけ内に秘めて生きていたのであろうか。
家を繋ぐという事は、家に縛られる事なのかもしれない。
いくつもの生死を見守った主人公が"とうとうあんたと二人になってしもうたなあ"と弟にいうのだが、その言葉が何とも言い知れぬ余韻を残す。
美しい調べを聴いているような穏やかな気持ちになれる小説であった。
Written by R
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